平安物語=短編集=【完】
***



紅葉の君が父宮のお屋敷に移ってから二十日。

私は、鬱々としてそこに向かっていた。


引っ越してからというもの、三日に一度以上の頻度で呼び出される。

……北の方に。

最初の三回程は、紅葉の君の事でと言われれば喜び勇んで参上した。

しかしそこで話されるのは、毎度毎度中の君の事…

北の方が、中の君を私にと望んでいるのが見え見えだった。


五度目の呼び出しの時、東宮の尚仁を訪ねていた為お断りした。

すると再び使者がやって来て、

『宮様がご所望の紅葉の君の事でお話ししたい事がございましたのに、あまり熱心な御様子ではないのですね。
この件は無かった事に致しましょう。』

と口上で伝えられた。

結局、尚仁まで気を遣って早く行けと言うし、本当にそんな事をされては堪らないので参上したのだった。

しかし、やっぱり中の君の話……


この女、完全に思い上がっている。



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