平安物語=短編集=【完】



北の方の前に通される直前で、琴の音色が止んだ。

想定通りの事に内心苦笑していると、北の方が御簾の側まで出て来る。


「ご到着に気付きませんで、若い人の拙い琴などお耳に入ってしまったのではないでしょうか。
失礼致しました。」

結婚した大君は東の対に移ったから、ここで言ゔ若い人゙は間違いなく中の君だ。

白々しい言葉に呆れながらも、

「いえ、大変結構にお聴き致しました。」

とだけ言って、

「ところで、今日はどのような御用でしょう。
紅葉の君の事と伺いましたが、何か私に仰せ事でもあるのかと期待して参りました。」

と話題を変えた。

しかし、

「いえ、ゆくゆくはこちらの花婿となられる方と親睦を深めたいだけですのよ。
先ほどの琴の人なども、宮様がこう足繁くいらっしゃるので華やいでいるのです。」

と北の方もなかなかしつこい。


結局今日も、穏やかな話の水面下での抗争で終わった。



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