平安物語=短編集=【完】
この日の為に用意してくださっていた筈の西の対のお部屋は、間に合わなかったそうです。
「なかなかお引越の決意をなさらなかったせいで」と、北の方のお小言を頂いてしまいました。
それを知った五日前から、女房達は大急ぎで縫い物や染め物などに励みましたが、完全には整いませんでした。
侍従などはそれが極めて残念でならず、北の方への穏やかならぬ想いを深めています。
しかしこのお部屋はもともと、あの紅葉の屋敷と比べればずっと美しく華やかな状態で頂いたのです。
紅葉の屋敷であれば、精一杯支度をしても今のこの部屋程度であっただろうと思えば何も気に病むことはありません。