平安物語=短編集=【完】



翌朝の宮様は、物憂げでなまめかしく、昨日までの宮様とは明らかに違っていらっしゃいました。

私の視線にもお気づきにならず、物思いに耽っていらっしゃいます。

宮様、と声をおかけすると、はっと我に帰られて頬を赤らめるのです。


「式部…」

こっそりとお側に呼ばれまして、何事かとお寄り致します。

「どうしましょう、私…
あの方の事を思うと、胸が詰まったようにモヤモヤするの。」

いかにも泣き出しそうにおっしゃる宮様の、お可愛らしいこと。

「宮様、それが恋でございますよ。」

宮様の想いに名前を付けて差し上げると、幾分御気分が楽になられたようでした。

「それではこれまでの私の想いなんて、ほんのお遊びだったのね。」

そうおっしゃって、ちょっとお笑いになりました。



< 643 / 757 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop