平安物語=短編集=【完】



今朝、私の顔を見ると宮様は微笑を浮かべて仰いました。

「私はついてないわね。」

「ついていないどころの話ではございません…っ」

思わず感情的になる私に、「でも、」と続けられます。

「私は幸せだわ。
何故かは分からないけどそう思うの。
心が満たされているのよ。」

おっとりとそう仰る宮様に、圧倒されました。

ずっと一緒に育って来た筈なのにどうしてこうも違うのでしょう。


「宮様…」

「うん?」

「私は、生涯宮様のお傍で宮様にお仕え致します。
ずっとお傍に置いてくださいませ…」

心からの言葉をお伝えすると、宮様はにっこりと微笑まれました。

「そうね、あなたが居てくれれば余生も楽しそうね。
素敵な女房に恵まれて、ついてるわ。」


願わくばどうか、このお優しい御方の余生が、心穏やかに過ごせる幸福に満ちたものでありますよう。

もう二度と、悲しい別離を経験なさることのありませんように…





― 藤式部 ―






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