人形と歯車
「動け」



須藤が言った。



人体模型



バッハ



ベートーベン



シューベルト



いずれも動かなかった。



「何もねぇじゃんか」


須藤がつまらなそうに言った。



「いいじゃん。なんか夜の学校ってわくわくするね」



中井が子供のように鼻歌を歌っている。



佐藤は幼稚園の時の遠足を思い出した。



須藤と中井が仲良さそうにうでを組んでいる。



時に口論になるのも変わらない。



「もういいかえ…」



窓の外に目をやりながら帰ろう、と言おうとした須藤がとっさにかがんだ。



それにならう二人。



「どうしたの?」



中井が声をしのばせる。



甘いニオイがした。
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