花火
染みついた汗を軽く流し、タオルで体を手早く拭く。この時期に二日連続で同じ服を着ることに抵抗を感じたが、勿論着替えなど存在しない。女性が男性の服を借りるならまだしも、男性が女性の服を借りる訳にもいかない。そんなことをしたら服が伸びて、二度と使い物にならなくなってしまう。諦めてシャツに袖を通した。
風呂場から出ると、鼻孔を刺激するいい臭いが漂ってきた。何を作っているのか確かめるようと、背中越しに手元を覗いてみた。
「炒飯か。美味そうな臭いだね」
「早かったね。冷蔵庫のあまり物で作ったの。ごめんね、本当はもっとちゃんとした物作りたかったんだけど」
振り向きながら、申し訳なさそうに俯く。
「そんなこと気にしないよ」
後ろから包み込むように答えた。
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