花火
「拓哉はもう、他に大切な人がいるみたいね。でも、今あなたの目の前にいるのは私よ。その人はこんな大切な日に、あなたの目の前にいないじゃない?どんな事情からかは分からないけど、今の拓哉を見ていれば、それが正当な理由からでないことは一目瞭然よ」
赤く充血しているだろう目で、思わず睨みつけた。だが、貴美の言っていることは何一つ間違っていなかった。
「拓哉、私はあなたのことが好きよ。あなたはとっくに別れたと思ってたみたいだけど」
目を反らすこともなく、だが最後の方は、自嘲気味に言い放たれたその言葉は、頭の中で何度も響き渡った。こんな弱気な貴美を見たのは初めてだった。半年間と言う月日が、彼女の中の何かを変えたのか、それとも、ただ今まで気付かなかっただけなのかもしれない。
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