花火
「見ず知らずの人に対してこんなこと言うのは失礼だし、相手の事情は分からないけど、拓哉、遊ばれてたんじゃないの?」
言いづらそうに口にするが、視線は真っ直ぐに伸びていた。
「俺だってそれくらいのことは考えたよ。実際そうなら、そっちの方が楽でいいくらいだよ」
笑うなら笑ってくれ、情けないのは百も承知だ。
「別に相手の女性を悪く言う気はないわよ。拓哉がその人を本気で好きで、幸せって言うなら、私は素直に身を引くわ。私にも責任があるし、拓哉を責めることは出来ない。でも、今のあなたは幸せには見えない」
いつも冷静な貴美だが、最後の方は感情の高まりを抑えきれない様だった。何も言い返す言葉も見つからず、ただ酸味の効いた、赤い液体を飲み下した。喉に引っかかったままの言葉と共に。
言えなかった、それども好きなんだと。
< 171 / 427 >

この作品をシェア

pagetop