花火
「何かあったんですか、吉田さんの家で?」
噂が大好きなんです、と顔には書かれていた。変な噂を流されるのも困る、適当ではあっても、納得させられる様な言い訳を考えた。
「探偵なんかじゃないんですよ。ただ、知り合いを探しに来ただけなんです」
即答で言い訳も思い浮かばず、車窓からの景色を眺めながら、自嘲気味に答えた。その表情を親身に受け止めたのか、ねずみ男は更なる詮索はしてこなかった。十五分かそこら走った後に、タクシーはゆっくりとスピードを落とし、停車した。
「あそこが吉田さんの家ですよ。探している吉田さんと違っても、恨みっこなしですよ。がんばりな」
メーターに表示された金額を受け取り、一言激励を残し去って行った。やはりねずみ男も、捨てた者じゃないな。
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