花火
 
電柱に描かれた番地と、表札に書かれた文字に集中して歩いた。時刻はすでに二時半、袖ヶ浦駅に降り立ってから、二時間がたとうとしていた。それから十分か十五分程歩いた頃だろうか、目標の家を見つけた。二階建ての、どこにでもあるような和風の一軒家。表札に吉田と書かれていなければ、一生興味を持つことのない様な一般家屋。堀船溜の吉田家の前でそうした様に、静かにタバコに火を点けた。半分程吸うと、家伝いに伸びる側溝に吸いガラを捨て、一つ大きく深呼吸をし、玄関のチャイムを鳴らした。間もなくして、ガラスの引き戸が半分程開いた。
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