花火
頬には乾ききらぬ涙の跡と、薄い塩の味が口の中に微かに残っていた。夢を見ていたのか。どこからどこまでが夢で、どこからどこまでが現実なのか、すぐに分からなかった。まだ夢の中の世界に取り残されているのかもしれない、今見ていた光景が全て夢だったとしても、近い将来現実となるのだろう。まるでデジャブの様に。もう戻れない所まで来てしまったのだ。逃げることは出来るかもしれない、だが一生付き纏うだろう。一番辛いのは誰だ、一人病魔と向き合い、悪女を演じようとした春香だ。誰の為に悪女に徹しようとしたのだ。誰のためでもない、僕の為だ。春香、もう嘘をつくことはないんだよ。僕はもう嘘をつけなさそうだ。誤魔化すことは逃げることで、逃げることはいつか、最大の後悔を生む様な気がした。手探りで携帯電話を手繰り寄せると、メール画面を開いた。暗闇の中に青白い光が浮かび上がった。