花火
弁当と春香を交互に見つめた。
「朝六時に起きて、腕によりをかけて作りました。重箱とまではいきませんが」
口をイーっとし、ちょっと意地悪な表情をしてみせた。
「覚えてたんだ?あれはジョークだって。本当に感動だよ。ありがと」
一杯食べてね、そう言われ、その期待に答える様に食べた。久しぶりの手料理、しかも春香の手作り、美味しくないはずがない。二人では食べきれないのでは、と思うほどあった中身も、みるみる内に減っていった。
「本当に美味しかったよ。特に卵焼きは絶品だね。また作ってね?」
さり気なく次を匂わせる発言をすると、彼女は笑顔で頷いてくれた。
こんな些細なことが幸せなのだ。でも人は、そんな些細な幸せにはアッと言う間に慣れてしまい、多くを求める様になる。この束の間がいつまでも続くことを祈った。一つの不安を抱きながら。
春香はあまり弁当に箸を付けなかった。少し痩せた点も気になっていたので、そのことについて聞いてみた。
「作りながら、ちょくちょくつまみ食いをしてたからかな」
少し照れ臭そうな笑みを浮かべた。つまみ食いをしている姿を想像すると、自然と笑みがこぼれていた。無駄な心配なら、それでいい。
< 46 / 427 >

この作品をシェア

pagetop