神威異伝




闇夜に染まる森の中に、食欲をそそる様な良い匂いが広がる。

焚き火の上に、石を積んで作った釜戸に乗せた、鍋を日向が掻き混ぜる。


「十夜、あのな……」


日向がぽつりと呟く。

だが、返事はない。


「…………十夜、聞いてるか?」


再び日向は声をかけるが、十夜からの返事は全くない。

ほどよく温まった鍋から自分の食べる分を茶碗に注ぎ、日向は十夜の方に視線を向ける。



日向の視線の先には……大きめの茶碗に注がれた鹿肉の鍋を、一心不乱に食べている十夜がいた。

相当お腹が減っていたのだろう。

日向の声など聞こえない程、夢中になって食べているようだ。


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