放浪者の恋-single planet-

2.

その夜は、むかし田舎で見たのと同じくらいたくさんの星が見えた。

寒い寒い夜。
春はまだこない。

空気が凍って、町はしんとしている。

日本酒でよっぱらったわたしたちの影が、お互いがお互いに絡まるように揺れながら少しずつ移動する。

みさとと観た映画のことを思いだした。

「あの映画、観たよ。」

「観た?よかっただろう?」

彼の目がぱっと光った。酔っぱらったときの彼の目は、一段と少年ぽくなる。

彼の死んだ犬がいまここにいたら、きっと、似てる、と思っただろう。

「よかった。わたしと、あなたみたいだと思った。」

ジプシーの楽士に捨てられた失意の若い女と、年の離れた男が、偶然の出会いを重ねて一緒に旅する話だ。

別れようとする、別れられない。
女は楽士の子供を生み、男は酒に酔う。

ここからさき、私たちの旅はどうなるのだろう。

「今日は、もう帰って寝ようか。」

「そうだね。」

手をつないでみる。あたたかい。

星はきらきらと光っている。

今はただ、少年にもどった50男と、恋におちた30女がいるだけだ。
それ以上でも、それ以下でもない。

忘れていた。もういちど、占い師に電話をしてみよう。

昔読んだジプシーの本に、《占いは、ばかなガーショのためのもの》と書いてあったけれど、
恋にはまった行く先知れずのわたしは、ただの、迷える子羊だから。

彼が、私にキスをする。

わたしも、彼に、キスを返す。

一日が、とても短い。

占い師に聞いてみたいのだ。
こんな毎日を、この先20年、繰り返していけるだろうか。
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