放浪者の恋-single planet-

3

彼が、飼っていた犬が死んでしまったときのはなしをしてくれたことがある。

それはとても悲しい話で、生き物と死別することとの彼のつらさが伝わってきた。

人間でも動物でも、愛するものとの死と、面と向かうことは、想像以上に生きる気持ちを萎えさせる。

わたしは、その予感を感じるごとに、すこしずつ親しいはずのものから逃げてきて、身をまもっていたからよくわかるのだ。

祖母が死んだときも、祖父が死んだときも、その死から遠いところにいるようにしていた。

きょうだいのなかで、いちばん、手をかけてもらっていたのにもかかわらず、怖かったのだ。

そして、その儀式がおわったときには、はっきり言って、ほっとした。

でも、突然の死、直前まで愛しいとか仲良くしたいという気持ちがつよいほど、覚悟ができていないほど、つらい。

濃く冷たい闇に、ひきこまれる。やっと浮上して世の中に戻ってきたときには、
こんどは世界にその存在がいないことの喪失感に、襲われるのだ。

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