放浪者の恋-single planet-

2

バツイチで成人した子供もいる彼は、わたしよりかなり年齢が上だったけれど、わたしにとって、それは全然問題じゃなかった。

きちんと、美しく整えたマンションに一人で住んでいて、どこにも依存せず、すっと立っている感じがした。

だから、私は年の差とか子供とか、いろんなことを「問題じゃない」と思って、彼との付き合いをはじめることを選んだつもりだった。

朝起きたら、キスして、きちんとベッドを整える彼。

ふたりで、近所のカフェでコーヒーとクロワッサンを食べる。

ときどき、忙しい彼の、仕事の電話の声が聞こえる。

気楽な、美味しい店での晩ご飯。

趣味の良い、ギャラリーや映画館。

そしてそれぞれが、いそがしく過ごした一日を、報告しあう、夜のベッド。

ある日、仰向けにベッドにねころんで、天井を見ながら彼がぽつりと言った。

「きょうこと、一緒に暮らせたらいいなあ。」
「でもさ、俺はお前より早く死んじゃう。あと20年くらいで死んじゃうんだよ、たぶん。」


まっすぐ、こちらを見ながら言った彼の瞳の奥には、「オスとしての生命の務め」を一旦終えた、結婚しない男の決意みたいなものを見た気がして、わたしは突然「問題じゃない」と思ったつもりのものたちを、思いだした。

その一週間後、彼の同い年の友人が、愛人の家で突然死んでしまった。
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