雨夜の月
「ツライ立場だね」


千里の言葉が、しんみりと届く。
否定はしない。

だけど、肯定もしない。


嵐の誕生日なのに、私がプレゼントを貰った気分で高揚していた。

そう、彼女に会うまでは。


千里にトイレに連れて行かれ、意味なく手を洗っていたら彼女がトイレに入ってきた。

「秋なのに、暑いよね」

彼女は笑って言った。


「ホントに…」


きっと汚い笑顔だったに違いない。

まだ裏切ったわけではないが、裏切った感が存在していて上手く笑えなかった。


そんな私に気付いたかどうか…彼女はそのままトイレの奥に消えた。



『どうしよう…どうしよう…』



動揺は明らかに、胸のど真ん中に在った。

すぐに千里が出て来て、私の手を引いて木陰へ戻った。


「大丈夫?」

「…うん。突然だったから驚いた」

「逃げても仕方ないんだけどね」

「ホント…」



向き合って話できるわけない。

もしできるなら、私は本心を話すだろう…


それすらできないから、留まるしかない状況だから、上手く立ち回れないんだ。


いつまでも、このままではいられない。


辛くても向き合う日が来ると、覚悟しておかなければ…



私の心は、ピースを失くしたパズルのようで、何だか気持ち悪かった。


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