雨夜の月
千里と出場の三人四脚は、幸運なくじを引いたクラスメイトを一人加えて、案外ハードに終わった。

途中、嵐の笑い声が聞こえていたが、足元から目を離せず耳で嵐を感じていた。


午前の競技が終わり、教室でお弁当の時間。

埃っぽい体だったけれど、それはそれで新鮮で現実を遠去けてくれた。



「これから…どうするの…?」

フォークに突き刺したウィンナーが、ポロッと机に落ちた。


そんなこと考えてない。正直、そこまで考える余裕なんてない。


「どう…するのかな…」


他人事にした方が楽で、誰が泣くとか傷つくとか、そんなこと考えるのが本当は面倒だった。

「でも、私はこのまま変われないよね。嵐が変わらない限り…」

「辛いでしょ?やっぱり」

「う…ん…自分だけ隠してる時の方が楽だった…かな」

「大丈夫…?」

「まだ今は大丈夫」


顔を上げて笑ってみせると、千里は鞄からチョコレートを取り出した。


「チョコでも食べなさい」

机に置いたチョコレートは、千里の優しさが溢れていて、何度となく救われた存在の大きさを改めて知った。


「そんなにチョコが嬉しかったのかい?」

涙を堪える私に、涙が引いてく言葉で笑顔を戻す。


「千里、最高だよ」

「知ってるよ」


大切な親友。


大切な存在だ。


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