流れ星との約束
「お手柔らかに」
 
 
 バッターボックスに入った河北が中に向かって言う。その六文字に深い意味が込められているのだろうが、中はそれに対し無言で答える。河北も返事が無いのは承知だったのだろう。既に視線はマウンド上の駿に向いていた。
 
 
 
 この練習はシートバッティングといい、実戦形式のバッティング練習。エースの寺島駿と二番手の村井俊之介、三番手で二年生の藤澤翔也が投げて、野手がポジションにしっかりとつく。
 
 打者は10球、投手と真剣勝負をする。和也のように最後が空振りでもそれで終わりだ。
 
 
 
 右バッターボックスで投手を見て集中している河北を見ながら、中はカーブのサインを出した。
 
 駿が頷き、振りかぶる。ゆったりとした動きで足が上がり、ボールが手から離れた。河北がバットを振ることもなく、ボールは中のミットに収まった。
 
 
「入ってる」
 
「分かってますよ!」
 
 
 中は河北の様子を観察しながら、座ったままでボールを駿に返球した。
 
 河北は変化球が打てない。そして克服できない。だから二年生ながら四番を打てるパワーがあるのに、打たせてもらえないのだ。
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