Bloody Kiss
それは、私の知らない出来事だった。

「その片割れに血を入れられて、俺は吸血鬼化した。そして、俺を助けようとしていたエリィの血を吸い……」

恢は目を逸らして、小さく呟いた。


『殺した』


本当に小さくて、辛うじて口の動きでわかったようなものだけど、確かにそう言っていた。

『エリィを殺したのは俺だ』

この言葉は、本当にそのままの意味だったんだ……。

エリィを殺したのは恢で、その原因となったのがあの吸血鬼。

「……」

「おやおや」

「っ!?」

声を掛けようと口を開いた瞬間、第三者の声が響いた。

近くには誰もいなかった。気配だって感じなかった。いつの間にこんな近くに……!?

すぐに恢の表情を窺う。
それは驚愕の表情。
つまり、あの恢ですらこの第三者の気配に気付かなかったということだ。

「こんなところにいらしたんですね」

優雅な言葉遣いで恭しく頭を下げる男。

「迎えに参りました、姫様」

何……?
一体何が起こっているの?

突然の展開に頭で理解しきれず呆然と目の前の光景を見ていた。

「お前はっ!」

突如恢が激昂して男に向かっていき、男に接近した直後大きな音と共に反対側の木々がなぎ倒された。男の近くに恢の姿はなく、代わりに倒された木々の根元に大きな傷を負って倒れていた。

「……嘘っ……」

恢がこんなにあっさりと投げ飛ばされた……?

「オヤに逆らうとはいけない子ですね」

男が何か言っていたけど、そんなのどうでも良かった。
今は一刻も早く恢の所へ行かなくちゃ!

「恢っ!!」

遠くてしっかりとは見えないけど、怪我が相当酷いことはわかる。起き上がる気配すらないってことは最悪の場合だってあり得る。
走り出そうとした瞬間、何者かに腕を捕まれ阻まれた。

「行かせませんよ、姫様」

何者かなんてこの場に一人しかいない。
振り向くと男が笑顔で腕を掴んでいた。離れた場所にいたはずなのに一瞬でこの距離を詰めるなんて、やっぱりこの男人間じゃない。

「離してっ!」

< 63 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop