アッパー・ランナーズ〜Eternal Beginning〜
「帰ったぞジジイ。カナ、飯ぃー」

「あ、兄ちゃんお帰りー」


多少建て付けにガタがき始めた玄関戸を開けると、香ばしいニンニクの香りが鼻についた。


台所で我が家秘蔵の中華包丁を体の一部のように自由自在に操り、腕をふるっているのはウチの料理長。

いや、敬意を払って料理番長か……名をカナという。


「じいちゃんなら工房。ご飯はもうちょいかかるから待ってて」

「そっか」


2つ下の、この出来のよすぎる妹が、我がスウェル家を支えてると言っても過言じゃないだろう。

炊事洗濯など家事全般、ひいては裁縫や家計の管理まで楽々やってのける天才的なまでの主婦ぶり。

見かけもそこそこ可愛い、薄化粧で十分な顔立ち。

おまけに学校の成績はきっちり上位に食い込む優等生ときたら、何だか自分の存在意義に一抹の不安を覚えないでもない。


ぼくが居住空間である小さめの平屋から、屋外の廊下で隣接する工房に足を向けると、「そうだ」と後ろからお声がかかった。


「兄ちゃん」

「なんだよ?」

「ご卒業おめでとさんでござーいー」

フライパン片手に、ニヤニヤしながらそんな事を言ってきた。


ふざけはているが、それでも今日は一応祝う気でいるらしかった。

でなきゃいつもより遥かに豪華な“あの料理”の、家計を全て掌握し一切合切無駄を許さない守銭奴のような妹が作った“あの料理”の説明がつかない。


ぼくは返す返事も短く、金属の切断音がこだます工房の扉に手をかけた。
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