アッパー・ランナーズ〜Eternal Beginning〜
ギギィー……
耳に残るボロい引き戸の軋む音には、毎回ながらうんざりさせられる。
気が向いたら油注しといてやるか。
「ジジイ、卒業してきてやったぞー」
工房の中は、訳の分からない機械が乱立してるせいで常に薄暗い。しかも今は夜だ。
高い天井の切妻屋根に設けられた小さな明かり取りの天窓から、薄銀色の巨大な月の鱗片が冷たい光を工房に落としているおかげで、何とか足の踏み場が見つかった。
慎重に一歩ずつ歩を進めながらもう一度呼びかけるが、返事はない。
ただ、工房の一番奥、ジジイの作業台があるスペースから僅かに灯火がオレンジ色の明かりを揺らめかせているところを見ると、未だ何かの作業中であるらしかった。
「この耄碌(もうろく)ジジイ!ただいまっつってんだろ!」
「誰が耄碌じゃ!」
顔が見える位置で話し掛け、やっと振り返ったジジイの顔は、油まみれで……ククッ。
「何笑っとる」
「いや、なんでも!」
……ゾンビのようだった。肝の小さい人が見たら、卒倒するかもな。
「ああ、そだそだ。これ卒業証書。これで晴れて俺も卒業だぜ」
学校長の判子が押された、金縁のご大層な文面をジジイに見せると、以外にも悲しそうな顔を見せた。
「ジジイ……?」
「あ、ああすまんすまん。ちょっと昔を思い出しただけじゃ」
「そう?もうちょっとでカナが飯作るけど、仕事終わんねぇの?」
「先に食っとれ。儂は終わらせなければいけぬ作業があるのでな」
その日、カナが作った“あの料理”を3人で食べる事は無かった。
耳に残るボロい引き戸の軋む音には、毎回ながらうんざりさせられる。
気が向いたら油注しといてやるか。
「ジジイ、卒業してきてやったぞー」
工房の中は、訳の分からない機械が乱立してるせいで常に薄暗い。しかも今は夜だ。
高い天井の切妻屋根に設けられた小さな明かり取りの天窓から、薄銀色の巨大な月の鱗片が冷たい光を工房に落としているおかげで、何とか足の踏み場が見つかった。
慎重に一歩ずつ歩を進めながらもう一度呼びかけるが、返事はない。
ただ、工房の一番奥、ジジイの作業台があるスペースから僅かに灯火がオレンジ色の明かりを揺らめかせているところを見ると、未だ何かの作業中であるらしかった。
「この耄碌(もうろく)ジジイ!ただいまっつってんだろ!」
「誰が耄碌じゃ!」
顔が見える位置で話し掛け、やっと振り返ったジジイの顔は、油まみれで……ククッ。
「何笑っとる」
「いや、なんでも!」
……ゾンビのようだった。肝の小さい人が見たら、卒倒するかもな。
「ああ、そだそだ。これ卒業証書。これで晴れて俺も卒業だぜ」
学校長の判子が押された、金縁のご大層な文面をジジイに見せると、以外にも悲しそうな顔を見せた。
「ジジイ……?」
「あ、ああすまんすまん。ちょっと昔を思い出しただけじゃ」
「そう?もうちょっとでカナが飯作るけど、仕事終わんねぇの?」
「先に食っとれ。儂は終わらせなければいけぬ作業があるのでな」
その日、カナが作った“あの料理”を3人で食べる事は無かった。