紺色の海、緋色の空
そう。僕たちは見つかってしまった。そしてあの男は早紀の前で僕をいたぶり、執拗に脅迫したのだ。

男の目当ては早紀の体だった。

早紀は男を受け入れた。

否、受け入れる以外、僕や家族を守るすべはなかった。

「もう十年も前の話だよ」

僕は生気の抜けた顔で、ホテルの窓の外に映る街灯を眺めた。

夢以外であの時のことを思い起こすのは、本当に久しぶりだった。

ずっと心に鍵を掛けてきた。

それでも時々、まるで体中の毛穴から血が噴き出すかのように、あの頃の記憶が蘇ることがあった。

僕の壊れたコンパスが、突然グルグルとでたらめに回り出すのだ。

そのたびに僕は鉛筆で手の甲を穿ち、叫びながら鍵を掛け直した。

心のコンパスを叩きつけ、ヤメロ、ヤメロと部屋中暴れ回った。

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