紺色の海、緋色の空
「……だから?」
とシロナが僕に尋ねた。
照明を絞った部屋の灯りに、シロナの濡れた髪が浮かんでいた。
「いや……」
僕は微かに顔を上げ、いつの間にかすっかり灰になってしまった煙草を灰皿の上でもみ消した。
いくら言葉の続きを探しても、いつだって僕の記憶はそこで闇に消えてしまうのだ。
「確かに僕は馬鹿だった」
ようやくそれだけを言い、僕は自嘲気味に笑った。
十年前の夏。
蝉の音がかしましい、むせ返るほどに暑い日の午後だった。
あの時彼女は、まるでガラスの断片のように切り立った感覚を胸に刻みつけ、僕に微笑んでみせた。
僕はその微笑みの中で、永続的に繰り返される"歪み"や"狂気"の終わりの果てに、何かが崩れ、何かが生まれる音を聞いた。
僕は気付くべきだったのだ。
いつしか彼女の中に、「死」という暗澹たる感情が芽生えていたことに。
気づかなければいけなかったのだ。
とシロナが僕に尋ねた。
照明を絞った部屋の灯りに、シロナの濡れた髪が浮かんでいた。
「いや……」
僕は微かに顔を上げ、いつの間にかすっかり灰になってしまった煙草を灰皿の上でもみ消した。
いくら言葉の続きを探しても、いつだって僕の記憶はそこで闇に消えてしまうのだ。
「確かに僕は馬鹿だった」
ようやくそれだけを言い、僕は自嘲気味に笑った。
十年前の夏。
蝉の音がかしましい、むせ返るほどに暑い日の午後だった。
あの時彼女は、まるでガラスの断片のように切り立った感覚を胸に刻みつけ、僕に微笑んでみせた。
僕はその微笑みの中で、永続的に繰り返される"歪み"や"狂気"の終わりの果てに、何かが崩れ、何かが生まれる音を聞いた。
僕は気付くべきだったのだ。
いつしか彼女の中に、「死」という暗澹たる感情が芽生えていたことに。
気づかなければいけなかったのだ。