紺色の海、緋色の空
「とどまってはいけないよ。捕らわれてしまうからね」



と、不意に誰かが話しかけてきた。

僕は訝しげに絵はがきを見た。

まさかとは思ったけれど、この部屋には僕以外に誰もいなくて、そして声は確かに絵はがきの方から聞こえてきた。

いくら目をこらし、耳を澄ましてみても、もう誰の声も聞こえなかった。

僕はテラスに出て、早紀の好きだったダージリンティをカップに注ぎ、絵はがきをコルクボードにピンで止めた。

結局その日、僕がしたことはそれだけだった。

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