only one
蘭の鉢植えが並べられた外からは比較的死角になっている場所にレジャーシートを敷いた。
トレーの上には湯気の立つ紅茶と遥夢の好きなマカロン。
「ピクニック気分を味わえるだろ?」
竜一から遥夢を隠すということを悟られないようにセッティングしたんだ。
「ふふ、マツさんって楽しみを見つけるのが得意なんですね。」
はにかんだような笑顔を見せながら遥夢は俺に話しかけた。
「楽しむ事にかけては俺の右に出る者はいないぞ。
彰人は堅物だし…。」
ふんぞり返って言葉を落とす俺を見て遥夢はクスクスと声を立てて笑った。
表情が柔らかく、明るさを取り戻した遥夢。
この屋敷に来たときは人形のように感情のなかった遥夢。
少しずつでも遥夢の受けた傷が癒えているようで遥夢が笑う度、俺も嬉しくなった。
「マツさん…。
私、今とっても幸せです。」
「もう怖くなくなったか?」
「ビックリはしましたけど怖くはなかったですよ?」
「そうかぁ?
初めて『お嬢』って呼ばれたときの遥夢の顔…
ぷぷぷ――ッッ。」
「あっ、えーっと…
皆さんに挨拶をしたときは正直…とっても怖かったです。
私が言ったのはマツさんのことで…。」
「わかってて言ったんだけど?」
「ひ…ひどっ!
マツさん、からかったんですね!」
ケタケタとわざと笑い声をあげると、遥夢は俺を睨みつけながら言葉を落とす。
遥夢が睨むといっても、上目遣いに見つめられてるようでそそられるだけなんだけど…。
喜怒哀楽がシッカリと戻ったかどうかを確かめるために俺はよく遥夢をからかっていた。
「悪い悪い。
遥夢が可愛いからついついからかいたくなるんだよ。」
「マツさんってホント調子いいんですね。」
頬をぷっくりと膨らませて話す遥夢に俺はニッコリと笑みを返した。