ときどき阿修羅!!
仏桑華が如く
「唯ちゃん、唯ちゃん」

 名前呼ばれて振り向くと、リセさんが手招きをしていた。

「そこにいると危ないよ。
こっちおいで」

 縁側のすぐ傍に立っている私から、だいたい5メートル後方にリセさん。

「そこ、ばっちり間合いだから」

 まあい?

 リセさんの言っていることが理解できず、首をかしげていると、ミシ、と縁側が軋んだ。

 タマキさん。

 手に和紙を持って、縁側に膝をつくタマキさん。

 右手で袋の上から日本刀を掴んだ。

 袋から白い木製の鞘に収まった日本刀を取り出す。

 瞬間。

 タマキさんの表情が変わった。

 どこか眠たげだった目は、すっと細まり、瞳が爛々と輝きだした。

 僅かにひきあがったように感じる目尻に擬音をつけるならば、「きりり」とが相応しい。

 絶えず色気を発していた半開きの唇は一文字に結ばれた。

 そのせいか、柔らかく包み込まれるような色気は封じられ、変わりに、刺すように挑発するそれが目の前に立っている私を襲う。

 まるで別人。

 私とタマキさんの間には、張り詰めた空気が流れていた。

 心臓の音、自分の体を這い回る血流の音すら聞こえてくる気がする。

 早鐘に変わった心臓に向けて、血液が我先にと突き進んでくる感覚。

 カッコイイとか、美形とか、美男子とか、容姿端麗なんて言葉は、今のタマキさんの前では粉々に砕け散ってしまうんじゃないか。

 正座の見本といっても過言じゃないくらいに綺麗な背筋、気持ち引いた顎先。
 午後の日差しが睫毛の影を作っていた。

 静かな、それでもじりじりと焦がさんばかりの視線を刀に落とす。

 左手で鞘を下から握り、左ひざの上に乗せた。
 そして右手で柄を上から握り、親指を鞘に当てる。

 滑らかで淀みのない所作。

 ――私の頭の中は真っ白になっていた。

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