闇夜の数だけエゴはある
佐久間。

確かに聞かない名だ。

私や儚のような名門出の亜吸血種という訳ではないらしい。

いわば血統書のついてない野良、『雑種』だ。

下手をすれば私、儚と三つ巴の闘争に発展するかと内心警戒していた為、その青年…武羅人の素性を知った私は、僅かに油断してしまう。

それがいけなかった。

「っ…しまっ…!」

一瞬の隙を突き、私の足の拘束から逃れた儚は、全速力でその場から離脱する。

私が武羅人と問答している間に、受けた傷を治癒させてしまっていたのだ。

追撃しようにも時既に遅し。

彼女は一気に私の蹴りの殺傷圏外へと走り去ってしまっていた。

「……」

面倒な事になった。

出碧家最後の生き残り。

好機は逃さず、確実にこの場で葬っておきたかったのだけれど。

余計な横槍が入ったお陰で、仕留め損なってしまった。

この苛立ち…どう晴らしてくれようか…。

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