マジックストーン
大きく見開かれた神崎先輩の瞳が揺れる。
「分かってます。神崎先輩は遊んでただけだって……だけどっ……好きになっちゃって……ごめんなさっ……さっきの人と幸せになってくだ――」
やっぱり、神崎先輩は私の話を最後まで聞いてくれないみたい。だって、また、ぎゅうって抱きしめたんだもん。
「やだ。俺は優衣ちゃんと幸せになる」
「でもっ……」
「玄関で話してたのは全部あの女の勘違い。 俺はどうも優衣ちゃんから信用されてないみたいだね」
「それは……その、だって……」
「だから、ちゃんともう一回言うから。これが最後、なんだからね」
私から少し離れた神崎先輩は、きゅっと引き締まった顔つきに変わった。
いつもみたいに甘く微笑むわけではなく、優しく私の頭を撫でるわけでもなく、怖くなるくらいの真剣な顔。
「椎葉優衣さんが好きです。春からずっとずっと好きです。 俺……神崎祥也と付き合って下さい」
がばっと頭を下げた神崎先輩。そんな神崎先輩を信じようと思った。好きだからこそ、分かる気がするの。
好きじゃなかったらこんな風に、真剣に『好き』って言えない。
「はい。私も神崎先輩が好きです」
そっと明るすぎない茶色い髪の毛に触れた。ゆっくりと上がる頭に合わせて、頬に手のひらを重ねて――
「優衣ちゃん?」
――ゆっくりと、薄く開いた唇にキスをした