芋女



いつもより風景に注意しながら自転車をこいだ。

今まで意識してなかったものが、こんなに綺麗に見えるのは不思議だった。

心の奥につん、とした何かの痛みが生まれる。

海も、山も、野ざらしの土地も、漁船も、港も、舗装されてないコンクリートの道路も、通っていた小学校も、クラスメイトの家も、全部が輝いて見えた。


すべて、この瞳に焼き付けようとしたけど、難しすぎた。





「おはよ~あかり!」

「あ おはよっ」


ふと前を見ると希穂がいた。気付かなかった。


「どーしたん?なんか顔色悪いよ」


ぎくっとなって、目が泳いだこの一瞬を見られていなかったか心配になる。


「何でもないよ?ほら、遅刻しそう。行こや!」


「うん」



希穂はしばらくいぶかしげにあたしの顔を見ていたけど、

しばらくして気に留めなくなっていた。





< 20 / 23 >

この作品をシェア

pagetop