准教授 高野先生のこと

「僕はあなたの初恋が成就すればいいなと思っています。

本当に、心から……。

あなたの想いがその男に届いて通じて、それであなたが幸せになれるなら。

けれど――

男は一人の女しか守れない。

女は一人の男しか救えない。


初恋が成就するということは、それが最初で最後の恋になるかもしれない。

そういう意味をも持っているんです。


もしも――

あなたは最初の恋に出会ったばかりなのに?

その男が切実に最後の恋を求めていたら?

あなたは若くてまだこれからの人なのに。

“これが最後だよ”なんて、それってどうなんでしょう???

とても重くて窮屈で、ひどく苦しくはないですか?


こういってはなんですが――

文学なんかやってる独身の三十男なんて、ろくなもんじゃないに決まってます。

きっと……女々しくて、しつこくて、臆病で。

いつか年若いあなたを飽きさせてしまう。

その男はきっと知っています。

あなたが優しい人だと。

決して期待を裏切れない人だと。

一度誰かに心を預けたら、簡単にそれをよそへやったりできない人だと。

何しろ年だけはとってますから、そういうことには聡いんです。


あなたの想いを知ったら、その男はきっと狡猾に貪欲にあなたに付け込んできます。

もう、これは絶対です。

それでも……それでもあなたは……」




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