准教授 高野先生のこと
もう私の心に迷いなんてなかった。
「いいですよ。送っていただかなくっても」
ちゃんと言えた……そう思った。
物語の表紙を、私は先生と一緒に開いてしまった。
そんな気がした。
「まさかと思うけど……自力で帰るから結構ですなんて言わないよね?」
まったくこの人は……。
「何いってるんですか、もう……とっとと私のこと回収に来てください」
「回収ってそんな……」
「来てくれるんですか?くれないんですか?どうなんですっ?」
プンスカプンの口調で言う。
もちろん本当はちっとも怒ってなんていない。
ちょっと照れているだけだ。
「回収でも拾得でもしますから。どうか機嫌なおしてください」
先生はこの間と同じく私のうちのそばまで迎えに行くと言ってくれた。
「すぐに行く」
「あっ……慌てなくていいです!ぜんぜん。だから安全運転で来てください」
「わかってますとも」
そうして先生は電話の向こうでくすりと笑った。