准教授 高野先生のこと

そのお店は先生が言ったとおりカジュアルなお店だった。

年輩の男性同士がワインを飲みながら談笑していたり。

仕事帰りの女性が一人で食事をしていたり。

広くはないけど家庭的な雰囲気のある居心地のよいお店だった。


私は優柔不断で、何を頼むかを決めるのに時間がかかる人なのだけど。

でも――

今日は先生があれこれと聞いてくれたり勧めてくれたりしたから。

えとえと……と悩まずにすんだ。


あれこれ注文を済ませて、とりあえず一息。

すると高野先生はちょっと懐かしそうにお店の中を見回した。

「僕が最後にこの店に来たのは、たしか……」

一人で来たわけないですよね?

そう思った。

そう思って悲しくなった。

だけど、彼女と来たことを先生は私に言うだろうか?

学生の私にそんなことを。


「あぁ、思い出した」

先生の顔がぱっと笑顔になる。

聞きたいけど、聞きたくない。

知りたいけど、知りたくない。

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