准教授 高野先生のこと
こういうとき――
“お互い様”って自分を納得させられる過去がないのがけっこう痛い。
私に元カレなんかがいたら、きっと――
あなたの過去に触れないかわりに、私の過去にも触れないでね?とか。
私は元カレのこと聞かれたら嫌だから、あなたにも元カノのこと聞かないわ、とか。
さくっと合理的に割り切って、建設的に振舞えるのかもしれない。
だけど――
「あの、あのね……」
「うん?」
「“涼子ちゃん”とのこと聞いてもいいですか?」
私にはきれいに割り切ることも、気になる気持ちを消し去ることもできなかった。
寛行さんは怪訝そうな顔も嫌な顔もせず、いつものように穏やかに言った。
「そんなに気になる?」
「そりゃあ……でも、今の寛行さんの気持ちを疑ってるとかじゃなくって……」
「うん」
「聞いたからってね、どうなるわけでもないってわかってるんだけど、自分でも」
だったら聞かなきゃいいじゃない?って心の中で思わず自分で突っ込みを入れる。
「いいよ」
「えっ」
「隠し立てするようなこともないし」
寛行さんはあっさりそう言うと、眼鏡を外してベッドの下にことりと置いた。