准教授 高野先生のこと

「だって……ちょっと驚かせてみたかったんだもん」

「驚いていたでしょ?」

「そりゃあ……」

一瞬だけだけど、確かに。

思いがけず現れた私を見てはっとしていた寛行さん。

「今日は本当に君のうちへ帰る?」

「えっ」

そのとき――

バッグの中のケータイが煩く振動してメールの受信を知らせてきた。

「あ、メール、ちょっと見ますね」

慌ててケイタイを取り出して確認すると――

「秋ちゃん!?」

「秋谷さん?」

「うん。たぶんね、明日明後日には生まれそうだって」

間隔の長い陣痛が来始めたのでぼちぼち持久戦の始まりかな、と。

急に心がざわざわして、ひどく気持ちがそわそわした。

自分が生むわけでもないのに……。

自分には何もできることもないのに……。






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