准教授 高野先生のこと
ちょうど授乳の時間だったようで病室に秋ちゃんの姿はなかった。
赤ちゃんはいつもママのベッドのすぐそばにいるのかと思っていたけど。
どうやらそれは私の勝手なイメージで、この病院のシステムは違っていた。
「ここは完全母子別床で、新生児室にも授乳室にも母親しか入室できないんですよ」
夏川さんはそう言って、ひょいと腕時計に目をやった。
「そろそろ御開帳の時間です。行きましょう、ご案内します」
「「「御開帳!?」」」
まるで数年に一度だけ公開される重要文化財みたい……。
なんて思ったのは私だけ???
御開帳とは、新生児室のカーテンが面会に訪れた人の為に開く時間のこと。
私たちが階下のそこへ着いたときにはもう面会に訪れた人で大賑わい。
大人も子どもも皆、べったりとガラス窓に張り付いている。
特に大人は食い入るように子や孫の様子を目じりを下げて見つめている。
その様子は、こんな言い方失礼かもだけど――
パンダの赤ちゃんを一目みようと動物園を訪れた人々のようで。
新生児室はまるでピカピカの獣舎のようでもあった。
窓に貼られた“むやみにガラスを叩かないように”という注意書き。
“フラッシュをたいて写真を撮るのも控えるように”という貼紙。
それらはまるでホームセンターのペットコーナーを連想させた。