准教授 高野先生のこと

ちょうど少し人波が落ち着いた頃、授乳室から秋ちゃんが出てきた。

「秋ちゃーん!」

「シオリーン!」

まさに感動の再会よろしく、かたくかたく抱き締めあう。

「おつとめご苦労様だったね」

「ムショ帰りみたいな言い方じゃんよ」

「だって……」

「中にいた人、見た?」

「うん。一番真ん中にいたね」

ついこの間まで“中の人”だった秋ちゃんの赤ちゃん。

今はもうお腹から出て新生児室のベッドの中だ。

夏川夫妻のご長男は“病棟一!”という誉れ高き超美男子。

真中君は、赤ちゃんとそのパパである夏川さんをあからさまに交互に見比べ――

「すごい、おそるべしDNA」

などと、新生児とは思えないその目力の強さに感服した。

ふと寛行さんを見ると――

ただ黙ってずらりと並ぶ赤ちゃんたちを見つめていた。

その横顔は、お父さんやお祖父ちゃんのそれとは違うけど、

やっぱり、慈愛というか、幼き者や守るべきものに対する静かな愛情に満ちていた。

私たちはしばらくそうして赤ちゃんを眺めていたけれど――

「真樹は疲れただろ?座れるところ……談話室に移動して話しませんか?」

疲れやすい秋ちゃんの体に配慮した夏川さんの提案にしたがった。






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