准教授 高野先生のこと
「そういえば、アッキー、名前はもう決まってるの?」
「うん。男でも女でもこの名前にしようって感じでね。随分前から、さ」
「え?え?え?、なんていうの?」
「律(りつ)。大宝律令の律ね」
大宝律令って……。
もっと他の例えというか、言い方もあるだろうに。
律って、法律の律?まさか、それって???
「お父……お祖父ちゃんが決めたとか?」
法律家の秋ちゃんのお父さんが名付け親???
「うんん、違うちがう」
「律は、旋律の律のつもりなんです」
秋ちゃんが、お祖父ちゃん説?を完全否定。
そして、夏川さんがさらにそれを補足した。
夏川さんの専門は近代詩と現代詩で、秋ちゃんも趣味で現代短歌をやっている。
言われてみれば、そんな二人らしい命名かも。
「もう、秋ちゃんが大宝律令なんて言うからだよー、紛らわしいなぁ」
「ごめんごめん。わかりやすいかなぁ、なんて思ってさ」
秋ちゃんはそう言ってけらけら笑い、夏川さんは苦笑した。
それから私たちは、秋ちゃんの退院の予定や出産祝いは何がいいかなどをを話した。
そして、面会時間の終了までにはまだまだ余裕があったけど、
疲れている上に忙しい秋ちゃんを気遣って、早々においとますることにした。