准教授 高野先生のこと

好きな人からのメールや電話を知らせてくれる着信メロディ。

私にとってそれは自分だけの密やかな楽しみだった。

こっそりと、ひっそりと、ささやかに、相手を想う秘密の遊び。


それは――

届いた絵葉書を、栞代わりに本に挟んでみたり。

同じ青いインクのボールペンを使ってみたり。

缶コーヒーは、お気に入りと同じものを買ってみたり。

ひょっとしたら、そんなことと一緒なのかも。



待ち焦がれた先生のメールを知らせる音楽が――

先生の好みの音楽だってこと。

先生を想わせる音楽だってこと。


私が敢えて言わない限り、先生はきっとずっと知らないまま。

それはやっぱりちょっぴり淋しいことだけど。

それでも、そんな淋しささえもどこか可笑しく愛しくて。

なんだか素敵に思えていた。


思えていたはず、なんだけど……。



< 90 / 462 >

この作品をシェア

pagetop