准教授 高野先生のこと
好きな人からのメールや電話を知らせてくれる着信メロディ。
私にとってそれは自分だけの密やかな楽しみだった。
こっそりと、ひっそりと、ささやかに、相手を想う秘密の遊び。
それは――
届いた絵葉書を、栞代わりに本に挟んでみたり。
同じ青いインクのボールペンを使ってみたり。
缶コーヒーは、お気に入りと同じものを買ってみたり。
ひょっとしたら、そんなことと一緒なのかも。
待ち焦がれた先生のメールを知らせる音楽が――
先生の好みの音楽だってこと。
先生を想わせる音楽だってこと。
私が敢えて言わない限り、先生はきっとずっと知らないまま。
それはやっぱりちょっぴり淋しいことだけど。
それでも、そんな淋しささえもどこか可笑しく愛しくて。
なんだか素敵に思えていた。
思えていたはず、なんだけど……。