Cold Phantom [前編]
「………私に、出来るかな?」
「試すんだよ。逃げてる自分が立ち止まる事が出来るかどうか。」
「試す…。」
そう言って少しだけ考えた後、姫ちゃんは顔を縦に静かに振り言った。
「ありがとう湯川君。ちょっとだけ勇気が出てきたよ。」
ようやく良い表情をするようになった。
そんな姫ちゃんに、俺は傘を持っていた右手を差し出した。
「持ってけ、風邪引くから。」
「いいの?」
「俺は風邪をひいたこと無いから大丈夫だって、それより早く行こうぜ。」
そう言って俺は傘を姫ちゃんに渡した。
「ありがと、行ってくるね。」
姫ちゃんはそう言って傘を持ちながら、俺のもとを離れた。
その後ろ姿が小さくなった時、俺はため息を一つついた。
「まったく、何格好つけてんだか。」
自分らしくない臭い台詞の数々に少し自嘲した。

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