Cold Phantom [前編]
※※

そう言えば、私が一人暮らしを始めたのもこんな止みそうで止まない雨の降る日だった。
本当なら孤児として引き取られる事になっていたのに、私がワガママを言って小さなアパートの一室に住むことになった。
理由は勿論あの話を聞いてから、誰かと暮らすのが怖かったから。
思えばあの時から逃げていたのかも知れない。
一人になりたいって確かに何度も思っていた。
それなのに、みーちゃんを拒絶する事が出来なかった。

-姫ちゃんの本音は寂しがりやって事だよ。-

そう言われた時、私の中の何かが音をたてて開いた気がした。
(寂しがりや)と言うとても簡単な理由に私は気付かなかっただけだった。
人は一人では生きてはいけない。
その言葉の意味をこれ程までに感受する時が来ようとは、昨日までの私には想像すら出来なかった。
だから、寂しがりやな私らしくヒロ君に向き合おう。
私はそう決めた。

「ヒロ君…」
「先輩!?」
ヒロ君はまだ、観覧車のロータリーの中にいた。
戻ってくるとは思っていなかったのか、私の声に驚いていた。
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