【奏】春に降る雪
『……ずっとそんな風に思いながら俺の話、聞いてたのか?』




「……最低でしょう?

ごめんね。もう…聞いてあげられない。

……仕事以外では話しかけないし、瞳子先輩との事も邪魔しないから安心してね」





置いてあった鞄を手に持ってゆっくりとその場所から離れた。




風は止んでいたけど、名残で優しく舞う桜の花びら。



その中をゆっくりと歩く。



私が離れてく間、ハルは何も言わなかったし引きとめたりしなかった。




引きとめてくれるかな、なんてこの期におよんで考えてしまう浅ましい私は本当に最低だ。





そのまま家に帰って、ベッドに倒れ込む。




社長たちが合流したとき私がいなかったら、サボりとかって怒られちゃうかも。



そんな事が頭をよぎる自分にちょっとだけ笑えた。





夜になって社長や先輩方から“体調は大丈夫か?”とか“辛かったら明日は仕事休め”というメールが何件も入ってくる。




ハルが、私は体調を崩して早退したって言ってくれたんだとわかって、止まってた涙がまた溢れた。





ハルはどんな時でも優しいんだね。






でも今は





その優しさがすごく苦しいよ。




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