朱鷺
再会
・・・チューぐらいしておけばよかった・・・・

 朱鷺(とき)はパソコンの画面を見ながらまったく違うことを考えていた。当然画面は見えていない。発注用紙にはっきり「黒」と書いてあるのに、彼は「白」と入力していた。彼のパソコンの画面には発注内容ではなく、昨日の薫(かおる)の顔ばかり写っていた。

 昨日突然電話が入った。メールではなかった。携帯にはすぐ誰からか、表示されたから驚いた。
 それは、生まれて初めてかーーーーっと好きになった薫だった。
 
 なぜ?薫?今頃?頭の中に乱立する?マークをよけながら彼は、少し震えて電話に出た。「・・・もしもし」
「あ?朱鷺君?元気ぃ、飲みに行かない?」
「・・・え?・・・ああ、いいよ、どこにいるの?」
「渋谷ぁ~、じゃ六本木行でもこうかぁ~」
「ポ、ポンギはいいよ、今から渋谷行くよ」
「そうおおぉぉ?じゃ、待ってる~」
彼は、動揺しているのに六本木へ行くことを即座に断った。
 
 
  もう4年も前のこと。飲み屋で薫と出会った。
当時フリーターだった朱鷺はコンビニや、宅配の助手のバイトを繰り返していた。コンビニの店長が何かいいことがあったのか、めずらしく飲みに連れて行ってくれた。はしご酒の最後の店に薫はいた。
 
 客観的に見れば、別に絶世の美人というわけではない。痩せすぎず、決して太ってはいない。強いて言えば平均的な若い人、という身体付きだろう。顔がタイプだったといえばそれまでだ。TVで見る誰かに似ていた。唇があの芸能人に似て、薄くてセクシーだ、と
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