朱鷺
「で、どうするの。これから」
「中野の友達が来ていいっていうからぁ、とりあえずそこに行くぅ」
一息ついたのか、薫はいつもの顔になったきた。中野の友達・・・・寝た男なのかな?と朱鷺はかんぐった。
「余計なお世話だけどさ、薫・・・真面目に働けよ。」
「・・・・・・・うん」

 食べ終わると、今さらながら怖かったと薫が、転落事件の話しをし始めた。もう、人間の本物のスプラッタを見るのか、と覚悟したらしい。落ちていく人はまるで、スローモーションに見えたらしい。
「女って怖いね、男だって突き飛ばすんだね」
「女だからじゃないと思うけどさ、何度も言うけど、薫まで落ちなくてよかったよ」
「・・・心配してくれるの?」
薫の目の中に、媚びを感じた朱鷺は、さっと目を背けた。

 夜の地下道は人がいない。こんな暗くて逃げ場がない地下道、男だって一人じゃ気持ちが悪いのに、夜、女が通るものか。がらがらのはずである。二人の足音が妙に響く。
「・・・朱鷺君、あの。。。。言いにくいんだけど」
「・・・わかってるよ」
朱鷺は、財布から1万円出した。
「電車賃だよ、文無しだと困るだろう。いつでもいいから返せよ」
札を渡そうとした時、がばっと薫が抱きついてきた。思わず朱鷺の持っていたバッグが落ちる。朱鷺は魅入られたように、また固まってしまった。
「・・・お願い」
「・・・な、なに?」
「お願い」
「なに?」
「今日はそばにいて」
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