朱鷺
別離
「私が、一般的じゃないんでしょうね」
 由美子は独り言のように、言った。
「あなたより長く生きているせいで、あなたよりはいっぱい恋したわ。これが本当の恋、これが最後、これが命がけ、いろいろあったわねぇ。でも、どんな些細な恋でも結局どれも本気で、その時は全部大事だった。」
ビールのグラス越しに朱鷺を、透かして見る。
「私だって、恋が終わって死のうとしたことあるのよ」
「・・・・・・」
「でも、自分の時より困ったのは、相手が死ぬって騒いだ時。もうひどかったのよ、自分で自分の頭をコンクリートにばんばん頭ぶつけてだらだら血を出したり、飛び降りるって脅されたり。やめてくれ、ってこっちも大騒ぎ。いい加減私も頭にきて、寝覚めが悪い、私のいないところで勝手に死んでくれ!って言ったの、そしたら、絶対おまえの目の前で死んでやる、ってものすごい目つきで言われた、これは、愛じゃないなとやっとわかった」
朱鷺が、黙りながらも目をそらさずに聞いている。
「浮気者で、いいかげんな私でも、そんな脅しは愛じゃないと思った。愛、って脅迫からは絶対生まれない。自分の都合だけよ。」
由美子はちら、と目を一回伏せてから
「もう、どーぞ勝手に死んでください。せめて私は死んだかどうかわかんない所に行こう、と相手のいない間に出て行ったの。それで本当に死ぬのも相手の人生さ、それで私が責められても人生さ、それが嫌でしかたなく、そいつと一緒にいられないんだからしかたがない。悪人呼ばわりされて結構だ!って開き直ってやっと気が楽になったわ」
「・・・それで?」
「何が?」
「死ななかったの?」
「アハハ、そういう人って死にゃしないわよ、でも開き直ったら、男にも女にも怖い奴だと言われたわ、朱
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