朱鷺
真理は、部屋でわんわん泣いていた。
「だって、朱鷺君、出て行けって言わなかったら、出て行けなかったでしょう!だって、だって、優しい人なんだもん、だって、」
一人で泣き叫ぶ真理だった。
朱鷺は表面上冷静に、仕事をこなすしかなかった。
こんなに苦い別れは知らなかった。10代の頃同じ年の女と別れた時は、へらへらしていられた。女なんかいくらでもいるさ、と負け惜しみも思えた。あの女だったから、それで済んだのか?真理とは違うあの女だったからなのか?彼の問いに誰も答えてはくれない。混乱していたが、朱鷺は由美子の言ったことを思い出していた。
ーーーーー「相手の幸せを願いながら、もめずに握手して別れられるなんて、お互い相手のことたいして好きじゃなかったんじゃないのぉ。恋なんて、どーせわがままのぶつかりあいじゃないのかな?」ーーーーーーー
ということは、真理はそれほど俺のことを好きじゃなかったのかな、泣き叫んで止めなかったし、よかったね、と言ってくれたし。
朱鷺は自分の都合のいいように解釈していた、(無理もないけど)あれをおだやかな別れと、朱鷺自身さえ思えないのに、真理がたいして自分のことを好きではなかった、と朱鷺は思い込みたかった。
朱鷺は、駅から少し遠い狭い部屋を借りた。その余力を母の生活の足しにすればいいものを、と自分でもうしろめたく思いながらも、彼は薫が大事だった。
あんなに辛い思いをして真理と別れたのだから、薫も自分を大事にしてくれるだろう、とどこかで思っていた。
「だって、朱鷺君、出て行けって言わなかったら、出て行けなかったでしょう!だって、だって、優しい人なんだもん、だって、」
一人で泣き叫ぶ真理だった。
朱鷺は表面上冷静に、仕事をこなすしかなかった。
こんなに苦い別れは知らなかった。10代の頃同じ年の女と別れた時は、へらへらしていられた。女なんかいくらでもいるさ、と負け惜しみも思えた。あの女だったから、それで済んだのか?真理とは違うあの女だったからなのか?彼の問いに誰も答えてはくれない。混乱していたが、朱鷺は由美子の言ったことを思い出していた。
ーーーーー「相手の幸せを願いながら、もめずに握手して別れられるなんて、お互い相手のことたいして好きじゃなかったんじゃないのぉ。恋なんて、どーせわがままのぶつかりあいじゃないのかな?」ーーーーーーー
ということは、真理はそれほど俺のことを好きじゃなかったのかな、泣き叫んで止めなかったし、よかったね、と言ってくれたし。
朱鷺は自分の都合のいいように解釈していた、(無理もないけど)あれをおだやかな別れと、朱鷺自身さえ思えないのに、真理がたいして自分のことを好きではなかった、と朱鷺は思い込みたかった。
朱鷺は、駅から少し遠い狭い部屋を借りた。その余力を母の生活の足しにすればいいものを、と自分でもうしろめたく思いながらも、彼は薫が大事だった。
あんなに辛い思いをして真理と別れたのだから、薫も自分を大事にしてくれるだろう、とどこかで思っていた。