パセリな彼女がついた嘘
ハーブが【スパイス】と書かれたコーナーに
置かれていることが分かるまでに約15分、
そしてその棚の前で約5分。

僕の眼球は棚の上から下を4往復していた。

店員に聞こうとしたけれど週末の夕方は主婦でごった返し、
どの店員も商品の陳列に追われているようで話しかけづらい。

比較的空いている野菜売り場へ戻り、
店員を探していると、見覚えのある顔を見つけた。

その人はかごを左手にかけて、
この前と同じグレーのパーカを羽織って【緑】たちを物色していた。

「あの」と蛍光灯に照らされた横顔に声をかけると、
驚くようにこちらを向いた。

やっぱり瑠璃子さんだった。

「どこかで会ったことありませんか?」と僕が言うと、

彼女は笑いながら目を逸らし、
「いいえ~」と言いながら棚に手を伸ばした。

こういう冗談につきあってくれる人が、
僕はたまらなく好きだ。
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