男性不妊と宣告されて~不妊治療闘想記~
その日、私は落ち着かずパートに出ていた。
ひたすら甘エビを剥くのに徹する。
いつもよりエビの殻が指に刺さっても痛みを感じないのは落ち着かないからだろう。
野田さんと今日は一緒。
上月さんもだけど、私が子供出来ないかも……と、打ち明けた後も普通に接してくれる。
自分達の子供の話題も気を使わないでしてくれる、変わらない優しさに救われていた。
「今日ダンナが検査なんですよ~」
「大きい病院行ったんだよね?あそこならきっと結果が分かるね」
ポンポンと剥きおわったエビを隣のザルに移しながら会話を続ける。
このお店は回転寿司とはいえチェーン店じゃないので全てを自分達でやる。
軍艦のサラダを作る曜日があったり、アジや秋刀魚の骨抜きやらシーチキン作りやら飽きなくて楽しい。
貧血気味な上月さんはエビを氷水で冷やすときに失神したらしいけど……。
パートに来ていて良かった。
家で待つだけだったら今以上に落ち着かなかっただろう。
「はい、これ持ってって!」
店長は昼の部で余った軍艦巻きを帰りに持たせてくれる。仕事帰りで空腹な私はついつい食べてしまい、最近太ったような気がしないでもない。
主婦の頃はヒマだから毎日1時間以上歩いてた訳で……立ち仕事は意外にカロリーを消費しないものだ。
そんな事を考えながら、パート先でちょっとだけ元気を貰って家に帰った私。
買い物もして帰ったおかげで、家に着いたのはリュウジと同じぐらいの時間だった。