5年先のラブストーリー-この世のしるし-
病院へ着くなり緊急手術となった。
しかし、手術は5分もしない内に打ち切られ、中から主治医・松田が出て来た。
その瞬間、腑抜け状態になった直樹は何も出来なかった。
けれど、松田からは意外な言葉が返って来た。
「恵子さんの生きたいと言う力が勝りましたよ。今は薬の影響で眠っていますが、直ぐ目も覚めるでしょう」
そう言われた直樹だったが素直には喜べなかった
手術時間の短さ、恵子の病と十数年も一緒に闘って来た直樹にとって、手術室で何が施されていたかくらいは検討がついていた。
その後、恵子は病室へと運ばれた。
静かに眠る恵子と無邪気に遊ぶ直子をずっと見つめていた直樹は、改めて家族3人が一緒に過ごせる幸せを噛み締め、自分の夢を閉じようとしていた。
その後、3時間は眠っていただろうか、恵子は突然、目を覚ました。
「えっ、私」
「目が覚めたみたいだね」
「病院なんだ。きっと薬を飲まなかったのがいけなかったのね」
直樹は何も言えなかった
その薬でさえ、もはや恵子には飲み込む事が出来ず拒絶していた事を知っていたからだった。